Cas9だけじゃない!農業分野でどんどん拡がるゲノム編集技術~品種改良で活用されるゲノム編集因子についての総説論文を発表~

ゲノム編集技術を活用した研究開発受託サービスを提供する株式会社セツロテック(本社:徳島県徳島市、代表取締役:竹澤慎一郎、以下「セツロテック」)の穂積俊矢研究員らは、品種改良で活用されるゲノム編集因子であるCas12aとMAD7について、その原理や穀物・野菜・果実での開発実績をまとめた総説論文を、2024年2月22日にBreeding Science誌にて発表しました。

本総説では、Cas12aおよびMAD7を用いて実施された多数のゲノム編集の事例をまとめ、Cas9とは異なるCas12aおよびMAD7ならではの特徴に焦点を当てたうえで、ゲノム編集技術がもたらす品種改良の新たな展開を概説しました。また、本総説では、セツロテックが独自にゲノム編集効率を高めた改良型ゲノム編集因子ST8も紹介しています。セツロテックは、今後もST8のさらなる改良に努め、「生物の潜在的な力を借りて、あなたと地球の課題を解決する産業を創造する」ことを目指します。

【論文情報】

Shunya Hozumi, Yi-Chen Chen, Tatsuya Takemoto, Shun Sawatsubashi, “Cas12a and MAD7, genome editing tools for breeding”, Breeding Science (2024)
https://doi.org/10.1270/jsbbs.23049

【概要】

世界の人口は急激に増加し、2050年には96億人(国連推計)に達するとされ、気候変動の影響とも相まって、深刻な食糧問題の発生が予想されています。人類は、有史以来、品種改良を行って既存の生物の特徴を変化させることで、様々な課題に対応してきましたが、これまでの品種改良技術、特に交配育種や突然変異育種は、狙った特徴を持つ種子や苗を得るには効率が悪く、長い時間がかかってしまうことが課題でした。2012年に発表されたCRISPR-Casシステムを活用したゲノム編集技術は、標的の遺伝子配列を自由に改変することができる技術であり、求める性質や特徴を効率よく得ることが可能です。そのため、このゲノム編集技術を多様な生物種へ適用し、スピーディーな新品種の開発を目指す「ゲノム編集育種」は、世界のホットトピックの1つであり、日々さまざまな開発が行われています。

CRISPR-Casゲノム編集で用いられるゲノム編集因子(いわゆる「はさみ」の役割の分子)のうち、最も広く知られているものはCas9と呼ばれるヌクレアーゼですが、Cas12aおよびMAD7ヌクレアーゼも、穀物・野菜・果実におけるゲノム編集技術の応用に広く採用されつつあるゲノム編集因子です。本総説では、セツロテックでのニワトリゲノム編集の事例も含め、Cas12aおよびMAD7を用いて実施された多数のゲノム編集の事例をまとめ、Cas9とは異なるCas12aおよびMAD7ならではの特徴について概説しました。また、MAD7と同じファミリーであり、セツロテックが独自にゲノム編集効率を高めた改良型ゲノム編集因子ST8も紹介しています。本総説で展望したゲノム編集技術の活用で、より効率的で迅速な品種改良を行うことが期待でき、人類が抱える様々な課題の解決につながります。

【ST8について】

基礎研究で一般的に使用されるゲノム編集技術CRISPR-Cas9システムは、未だ海外の開発者間で特許紛争が続いており、商用化に必要なライセンスの複雑さや、高額なライセンス費用が、産業利用時のネックとなっていました。セツロテックは、誰でもゲノム編集を実施できるツールを提供することで、できるだけ多くのユーザーにゲノム編集技術を活用して頂きたいという思いから、CRISPR-Cas9システムに替わる新たなゲノム編集システムの開発に取り組んできました。

【特許情報】

・特許番号:特許第7113415号 
・登録日:2022年7月28日

ST8は、セツロテックが独自に開発・改良した新規ゲノム編集因子(CRISPR-Casシステムで機能するヌクレアーゼ)です。セツロテックが特許を取得しており(特許第7113415号)、現在もさらなる改良に努めています。

【用語説明】

1)ゲノム編集技術: DNAを切断する「はさみ」の役割の酵素(ヌクレアーゼ)と、切断する場所を指示する分子(人工的にデザインしたRNAなど)を細胞に導入することで、ゲノム上の標的の遺伝子配列を自由に改変することができる技術です。

2)CRISPR-Casシステム: 現在広く利用されるゲノム編集技術の一つで、CasヌクレアーゼがガイドRNAと結合し、ゲノムの中からガイドRNAの一部と相補的な標的配列を探し出し、選択的に切断します。細胞の持つ切断修復メカニズムの働きにより、ゲノム上に新たな配列が生み出され、標的遺伝子の機能を変化させたり、あるいは新しく付加させたりすることができます。

【セツロテックについて】

株式会社セツロテックは、徳島大学で培った技術とノウハウを基に2017年に創業した、徳島大学発ベンチャー企業です。セツロテックのミッションは、「生物の潜在的な力を借りて、あなたと地球の課題を解決する産業を創造する」ことです。徳島大学の竹本龍也(代表取締役会長CTO)らは、2015 年に「ゲノム編集マウスを簡便にかつ高効率に作製できる手法」を開発しました(特許6980218号)。また、徳島大学の沢津橋俊(取締役CSO)は、培養細胞で高効率ゲノム編集を実現するVIKING法を開発しました(特許6956995号)。さらに、独自の新規ゲノム編集因子ST8(特許7113415号)を開発し、医療分野のほか、農業や畜産分野において品種改良を高速化する研究開発を進めています。セツロテックは、これらの独自技術を活用し、アカデミア・企業の研究者向けのゲノム編集受託サービスを展開するほか、ゲノム編集生物を広く産業界に提供し、ゲノム編集産業を開拓することを目指すPAGEs(Platform App(lication) using Genome Editing by Setsurotech)事業を展開しています。

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